
50代60代になると、地方にある借地権付き建物である実家を相続したけれど、自分は都心に住んでいて、地元に戻る予定はない。空き家になっている建物や借地権の売却を進めたい、という問題に直面する場合があります。
借地権付き建物が売れない、という悩みを抱える人が多い中、地主から買取の打診があったけれど、提示された承諾料や譲渡所得税が高額だったため、事前に対策を考えたい。地主に言われるままではなく、少しでも借地権を高く売って、老後資金の足しにしたい、そんな希望を持つ方も少なくありません。
借地権の売却価格は、個々の事情によって大きく変わるため、インターネットで検索しても自分のケースではいくらが相場なのかよく分からない。3,000万円控除の対象になるのかどうかが判別できない、といった部分も、多くの方が戸惑いやすいポイントです。
今回は、このような借地権の売却金額や税金、控除についての問題を、専門家目線で解説いたします。
- 借地権売却にあたっての税金の計算式
- 所有期間による税率の違い
- 地主への承諾料を経費にする方法
- 3,000万円特別控除の適用要件や活用術
- 確定申告の時期と必要書類
など、正しい知識を得て、手残り金額の最大化を目指しましょう。
借地権の売却にかかる税金や手数料はいくら?

借地権を売却する場合、さまざまな税金や手数料が発生します。
思いがけない支払いで驚かないように、売却時に必要な費用を把握しておきましょう。
仲介手数料
不動産会社などに依頼して、売却手続きを進める場合、業者に支払う仲介手数料がかかります。仲介手数料は、宅地建物取引業法で以下のように定められています。
| 売却価格 | 仲介手数料の上限 |
|---|---|
| 200万円以下の部分 | 売却価格の5% |
| 200万円超~400万円以下の部分 | 売却価格の4% |
| 400万円超の部分 | 売却価格の3% |
この表のように、400万円以上で売却できた場合、200万円以下の部分、200万円超~400万円以下の部分、400万円超の部分によって、計算方法が変わります。
そこで、400万円を超える金額で売却できた場合は、次の速算式が用いられます。
売却希望額がある場合は、事前に速算式を活用して、仲介手数料の目安をたしかめておくと安心です。
【売買代金800万円以下の物件に適用される「低廉な空家等の媒介報酬特例」】
売却したい物件が、相続した地方の借地権付き空き家の場合、売却価格が800万円になるケースが少なくありません。この場合、空き家等特例が適用される可能性があります。
令和6年7月1日施行の国土交通省告示改正により、売買代金800万円以下の宅地・建物(低廉な空家等)の媒介については、通常の速算式による上限を超えて、最大30万円(税抜)+消費税=33万円(税込)まで受領できる特例が設けられました。
地方の相続空き家は売買代金が低額となるケースが多く、通常の計算式ではごく少額の仲介手数料しか発生しません。そのため、不動産会社が取引に消極的になる例がみられました。
しかし現在は、空家等特例により、仲介会社が業務コストに見合った報酬を受領できるようになっています。特例を活用した、空き家の流通促進が期待されており、相続した空き家を売れる可能性も高まっているといえます。
本特例の適用には、媒介契約時に依頼者への事前説明と合意が必要です。
また、実際に特例報酬の対象となるかは、売買対象、媒介契約の内容、宅地建物取引業法上の取扱いによって異なるため、媒介契約時に不動産会社へ確認してください。
譲渡承諾料
仲介会社が借地権の売買を進める場合、地主の承諾が必要です。このとき、承諾の謝礼として地主に支払うのが譲渡承諾料です。個々のケースによって金額が変わりますが、一般的な目安相場は、売却価格の1割程度です。
地主へ直接売却する場合は、譲渡承諾料は発生しません。
印紙税
作成した売買契約書に貼付する、収入印紙にかかる税金です。2027年3月31日までは、軽減税率が適用されているため、以下の金額になっています。
現行法令では、不動産譲渡契約書の印紙税軽減措置は令和9年(2027年)3月31日までの間に作成される契約書が対象です。2027年4月以降に売却を予定している場合は、最新の法令・通達をご確認のうえ手続きを進めましょう。
| 売却価格 | 2027年3月31日まで(軽減税率) | 2027年4月以降 |
|---|---|---|
| 500万円超〜1,000万円以下 | 5,000円 | 10,000円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 10,000円 | 20,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 30,000円 | 60,000円 |
| 1億円超~5億円以下 | 60,000円 | 100,000円 |
登録免許税
売買にあたり所有権移転登記や抵当権抹消登記を行う場合、登録免許税がかかります。所有権移転登記の登録免許税は、一般的に買主が費用を負担します。
住宅ローンが残っている場合の抵当権抹消登記(不動産1個につき1,000円)は、売主が負担するのが通例です。登録免許税とは別に、登記簿謄本の取得費や司法書士報酬がかかるケースもあります。
譲渡所得税
譲渡所得税は、売却代金から取得費・譲渡費用・特別控除を差し引いた結果、譲渡益が出る場合に課税される所得税と住民税です。譲渡所得の計算は、売却価格から取得費、譲渡費用を差し引いて計算します。
譲渡価格-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得
取得費には、売却したい不動産を購入した際の費用だけでなく、仲介手数料などの手数料も含まれます。借地権付き建物の場合、借地契約料、更新料・増改築承諾料などの支払いがあれば、あわせて計算します。
建物部分の取得費は、購入代金をそのまま計上するのではなく、購入時から売却時までの減価償却費相当額を差し引いた額となります。土地や借地権の部分は経年で価値が減少しないものとして、減価償却の対象外です。
正確な計算は、専門家への相談がおすすめです。
また譲渡所得は、建物や借地権の所有期間によって、課税される税率が変わります。
| 所有期間 | 区分 | 税率 |
|---|---|---|
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 所得税30.63%+住民税9%=39.63% |
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 所得税15.315%+住民税5%=20.315% |
※令和19年まで特別復興税を含む
所有期間の判定は、譲渡した年の1月1日時点で行います。たとえば2026年中に売却する場合、2020年12月31日以前から所有していれば、長期譲渡所得となります。
相続や贈与で取得した借地権や建物は、被相続人(亡くなった親など)や贈与者の取得時期を引き継ぎます。相続して間もない場合でも、親や親せきが取得してから5年を超えていれば長期譲渡所得で計算されます。
借地権の売却については下記記事で詳しく記載しておりますので、あわせてご確認ください。
【宅建士監修】借地権付きの土地・建物を高く売る方法|相場・税金・売却の流れを徹底解説
地主に支払う『承諾料(名義書換料)』を経費(譲渡費用)扱いにする方法

地主に支払う承諾料は、相場で借地権価格の10%程度になるケースが多く、高額になりがちです。頭の痛い出費ですが、承諾料は譲渡費用に含まれる、経費にできる出費です。
支払った承諾料の分だけ、譲渡所得の額を減らせるため、最終的に支払う譲渡所得税の節税につながる場合があります。
承諾料の支払いの際に、領収書を受け取らなかった、という場合は、合意書や承諾書に金額の記載がないかどうか、たしかめてみてください。記載がない場合は、承諾料を支払った際の振込明細や通帳のコピーなどの記録があれば、経費として認められる可能性があります。
支払う税金は、確定申告の内容から算出されます。領収書がない場合は、合意書や承諾書、振込明細、通帳などのコピーを資料として添えて、税務署へ提出しましょう。
税務署で確認の上、問題がないと判断されたら、承諾料が経費として認められ、課税所得金額を減らせます。
古い借地権で『取得費』がわからない! 概算取得費5%ルールの落とし穴
借地権売却にあたり、税金の計算をしたいけれど、古い契約のため契約書や当時の資料が見つからず、取得費が分からない、という場合があります。このような場合の救済措置として使われるのが、書類紛失時の概算取得費5%ルールです。
取得費が分からない場合や、実際の取得費が売却価格の5%を下回る場合に適用され、売却価格の5%を取得費として計算します。
実額取得費と概算取得費(5%)のいずれか大きい方を選択できるため、資料が見つかった場合でも、実額が概算を下回るときは概算を選ぶのが有利です。
仮に3,000万円で売却する場合、当時の資料があり、1,000万円で取得したと証明できる場合、利益は差額の2,000万円となり、この金額をもとに税金を計算します。
ですが、資料がなく取得費が分からない場合、3,000万円で売却する場合、5%の150万円が取得費扱いになります。この場合、差額の2,850万円にたいして税金がかかるため、支払う税金が増えてしまう可能性があるため、注意が必要です。
取得費が分からない場合は、当時のパンフレット等で実額を証明できると、取得費の根拠にできるケースがあります。住宅関連の書類を収納している場所、貴重品を保管している場所などに、提出できる資料がないか、探してみてください。
借地権売却で税金を大幅に減らせる特例

借地権売却の際、節税効果の高い特例を活用すると、支払う税金が減るため、手残り金額を増やせる場合があります。適用される場合、手残り額が数百万〜一千万円単位で変わるケースもあります。
3,000万円の特別控除、取得費加算の特例の内容を、チェックしておきましょう。
居住用財産の3,000万円特別控除
マイホームなどを売却した際、譲渡所得が3,000万円以下の場合は、控除の対象になります。この特例は、マイホームを売却する際の特例であり、相続した借地権付き建物には原則適用されません。
ただし、一定の要件を満たす場合は、相続した空き家を売却する場合も、3,000万円の特別控除を受けられる場合があります。売却する家屋に住んでいる場合、相続した建物を売却したい場合、それぞれの要件をみてみましょう。
売却する家屋に住んでいる人向け:マイホームの3,000万円特別控除
売主自身が、居住していた家屋を売却する場合、譲渡所得から最大3,000万円まで、特例で控除が受けられます。控除対象には、家屋だけでなく敷地や借地権も含まれます。
譲渡所得が3,000万円を超える場合、超過分のみが課税対象になります。
相続した空き家を売却する人向け:被相続人の居住用財産(空き家)に係る3,000万円特別控除
相続した空き家の売却で、3,000万円控除の特例を活用したい場合、以下9つの要件をすべて満たす必要があります。
※本特例は、平成28年4月1日から令和9年(2027年)12月31日までの譲渡が対象です
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 区分所有建物(マンション等)でないこと
- 相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと(被相続人が単身居住)
- 相続から譲渡まで事業・貸付・居住の用に供されていないこと
- 譲渡時に耐震基準を満たしているか、譲渡前に家屋を取り壊していること(令和6年1月1日以後に譲渡する場合、一定の要件のもと、譲渡後から譲渡日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行う場合も、対象になり得ます)
- 売却代金が1億円以下であること
- 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 被相続人居住用家屋等の譲渡をした相続人が3人以上の場合、各相続人の控除上限は2,000万円となる(令和6年1月1日以後の譲渡)
- 相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例と併用不可
必須要件を満たしている場合は、相続した借地権付き建物でも、3,000万円の特別控除が適用されます。
課税所得価格の計算方法
居住用財産の3,000万円特別控除が適用される場合、課税譲渡所得金額は、以下の計算式で算出します。
3,000万円控除の要件を満たす場合で、計算結果が0円であれば、納税の必要はありません。
適用には確定申告手続きが必要なため、売却した翌年の2月16日〜3月15日(期限日が土日祝の場合は翌営業日)に、忘れずに申告を済ませておきましょう。
相続税額の取得費加算の特例
相続した借地権付き建物を、相続開始から3年10ヶ月以内に売却する場合、支払った相続税の一部を取得費に上乗せできます。
この特例が適用されるのは、財産を取得した相続人に、相続税が課税されている場合に限ります。相続財産の総額が基礎控除額以内で、相続税の納付義務がない場合は、この特例は適用されません。
条件を満たしている場合、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却する必要があります(実務上“相続開始から3年10か月以内”と表現されます)
取得費が増えると、課税される金額が少なくなるため、節税につながる点がメリットです。
相続開始の日は、借地権付き建物の所有者(被相続人)が亡くなった日から数えます。相続の手続きが終わってから3年10か月ではないため、間違えないようにしましょう。
被相続人が亡くなってから、すでに2年以上過ぎている、という場合、手残り金額を増やすためにも、早めの売却を目指すのがおすすめです。
借地権付き建物は売りづらいと言われており、買取を拒否する不動産会社も少なくありません。借地権付き建物の売買に強い業者へ、できるだけ早めに相談してみてください。
借地権売却後の確定申告の手続きと必要書類

借地権を売却したら、確定申告の手続きが欠かせません。売却した翌年の2月16日〜3月15日(日付が変わる場合もあり)に、管轄の税務署へ申告書類を提出しましょう。
スムーズに申告を進めるためには、事前に書類を用意しておくと、申告作業をスムーズに進められます。以下のチェックリストを参考に、2月16日までに準備を済ませておくと、申告開始のタイミングですぐに手続きを進められます。
【借地権売却の確定申告に必要な書類】
◆ 共通で必要な書類
- 所得税及び復興特別所得税の確定申告書
- 申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
◆ 売買関係書類
- 売買契約書の写し
- 仲介手数料・承諾料・印紙代・解体費等の領収書
- 取得時の契約書・領収書(紛失時は通帳のコピー等)
◆ 特例ごとに必要な書類
〈マイホーム3,000万円控除の場合〉
- 戸籍の附票の写し等(住民票住所と不動産所在地が異なる場合)
〈空き家3,000万円控除の場合〉
- 被相続人居住用家屋等確認書(市区町村発行)
- 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書
借地権売却にあたっての確定申告は、一般的な建物を売却した際よりも、多くの準備が必要です。一人で進めるのが難しい場合は、税理士に相談すると安心です。
※空き家3,000万円控除を検討する場合、売却方法や耐震改修・取壊しのタイミングによって必要書類が変わります。取壊し後に敷地等を売却する場合や、譲渡後に耐震改修・取壊しを行う際は、被相続人居住用家屋等確認書、登記事項証明書、取壊しを証する書類など、追加書類が必要になるため、事前に税理士または税務署へ確認してください。
借地権の税金で損をしないために。専門窓口への相談が重要な理由

借地権の売却は、地主との交渉で承諾料がいくらになるのか、使える経費や特例があるのかなど、検討するべき点が多岐にわたる取引です。手残り金額を少しでも多くするなら、借地権売買にくわしい専門窓口で、地主との交渉と節税対策をセットで相談してみましょう。
私たち新青土地コーポレーションは、実務に強い総合不動産コンサルタントです。不動産のプロであるコンサルタント、税金のプロである税理士、法律のプロである司法書士が、同じオフィスに在籍しているため、あらゆる角度から交渉と節税のシミュレーション、実務を担えます。
借地権の売却、地主との交渉、節税のアドバイス、確定申告まで、借地権の売買に関するサポートは、新青土地コーポレーションへご相談ください。
まとめ
借地権売却時の手残り金額は、実務の知恵をどのくらい持っているかによって変わります。
正確な計算と使える特例の活用で、支払う承諾料や税金を最大限に抑えられる未来を目指しましょう。
手残り金額を多く残せれば、借地権売却で得た資金で老後に備えられます。納得のいく価格での売却・納税を目指すために、専門家とタッグを組んで、一つ一つ進めていきましょう。

