
借地権は「売れない」「手続きが難しい」と思われがちですが、要点さえ押さえれば売却は十分可能で、条件によっては高値を狙えます。ただし、地主の承諾や承諾料(名義変更料)、税金など、通常の土地売却と異なる注意点を理解しておくことが大切です。
この記事では、借地権付き建物の売却の仕組みや相場の確認方法、税金・控除、地主との交渉のコツを、初めての方にもわかりやすく解説します。
借地権とは?基本の仕組みと種類
まずは、土地を「借りて使う権利」がどのようなものか、借地権の基礎知識を解説します。
借地権の基本構造と法的な位置づけ
「借地権」とは、他人(地主)が所有する土地を借りて建物を建て、その土地を利用できる権利です。土地を購入せずに利用できる一方、土地の「所有権」はありません。借地権は「借地借家法」によって守られており、居住の安定を目的とした権利です。
また、利用や処分には制限があります。第三者への売却や貸し出しをしたい場合は、地主の承諾が必要となることが多く、承諾を得られないと売却が進まないケースも少なくありません。こうした特徴を踏まえると、自由度は高くないものの、借地権は法律で認められた「資産価値のある権利」といえます。仕組みを理解しておけば、売却時もスムーズな対応が可能です。
旧法借地権と新法借地権(普通借地権・定期借地権)の違い
現在の借地権は平成4年8月に施行された新借地借家法(新法)における借地権と、新法施行前の旧借地法に基づく従前の借地権が混在しています。
しかし、新法における定期借地権以外(旧法借地権や普通借地権)の借地の場合は、更新を前提とした契約が多いため、満期と同時に消滅してしまうものでなく、借地権者側が継続して利用(更新)したり売却する権利があります。
また、新法借地権には「普通借地権」と「定期借地権」があり、売却のしやすさや価格に大きく影響します。主な違いは、以下のとおりです。
- 旧法借地権や普通借地権:契約更新が可能で、長期利用しやすい
- 定期借地権:更新不可で、期間満了後は原則更地にして返還
「旧法借地権」や「普通借地権」は更新できるため、長く住み続けられる安心感があり、市場での需要も高めです。そのため、買い手が見つかりやすく、比較的高値で売却されるケースも多く見られます。
一方、「定期借地権」は買い手が限られることが多く、特に残存期間が短いほど価格が下がりやすくなります。状況によっては、売却より建物の取り壊しや建物買取請求を選んだ方が負担を抑えられる場合もあるでしょう。まずは、契約内容を確認し、どちらの借地権か把握することがスムーズな売却の第一歩です。
借地権は本当に売却できる?売却の仕組み
ここでは、借地権を売却できる仕組みと流れをわかりやすく解説します。
地主の承諾が必要なケースと不要なケース
多くの場合、借地権の売却には地主の承諾が必要です。譲渡や転貸は自由にできず、承諾を得た上で「名義変更料(承諾料)」を支払うのが一般的で、相場は借地権価格の5〜10%前後となります。承諾が得られない場合は、家庭裁判所へ「譲渡許可申立て」を行う方法があります。以下に、承諾が必要なケースと不要なケースを一覧表にまとめました。
| 承諾の要否 | 主なケース |
| 承諾が必要 |
|
| 承諾が不要 |
|
承諾の要否は契約内容や借地借家法の規定で異なるため、まずは契約書の確認が重要です。不明点は早い段階で専門家へ相談しておきましょう。
借地権付き建物を売却する際の流れ
借地権売却は、次の手順で進めるとスムーズです。
| 手順 | 概要 |
| 1.借地契約の確認 | 契約形態(普通・定期)、残り期間、地代、建替え条件、更新の有無を確認します。期間が短いと売却価格が下がるため、対策を検討します。 |
| 2.地主へ売却意思の通知 | 売却前に地主へ相談し、承諾料や条件について事前に話し合うとトラブル防止になります。 |
| 3.不動産会社による査定・買主探し | 借地権に詳しい不動産会社へ依頼すれば、適正な価格で売却しやすくなります。複数査定で条件を比較しましょう。 |
| 4.承諾・契約・登記手続き | 地主承諾を得た上で売買契約を締結し、司法書士を通じて名義変更や登記を進めます。税金や書類が複雑なため、専門家と連携すると安心です。 |
流れを理解して準備することで、余計な時間や費用をかけず、スムーズに売却成立へ進めやすくなります。
借地権の売却相場と計算方法

借地権の価格は、土地の評価額や借地権割合で算出できます。ここでは、相場の求め方と、売却相手によって変わる価格の違いを解説します。
借地権割合による相場の算出
借地権の売却価格は、土地の評価額に「借地権割合」を掛けて算出するのが一般的です。借地権割合とは、土地の価値のうち借地権が占める割合を示すもので、地域によって異なりますが60〜70%程度(都内住宅地)が目安とされています。割合が高いほど借地権の評価額も上がります。
たとえば、土地評価額3,000万円で借地権割合70%であれば、算出される借地権価格の目安は2,100万円です。借地権割合は、国税庁が公表する路線価を基に調べられます。ただし、この金額はあくまで理論値であり、実務の査定ではそのまま適用されません。査定時には以下の条件が加味され、増減調整が行われます。
- 残存契約期間(短いほど評価は低下)
- 更新の可否や更新料の有無
- 建替え承諾の可否
- 地代が相場と比べ高いか低いか
- 抵当権設定承諾が得られるか等
特に残存期間が短い場合は、借地権割合から1〜3割下方修正されるケースもあります。路線価だけで判断せず、借地条件を踏まえて相場を把握することが重要です。
参照:国税庁|路線価
価格はどう売るかで変わる
借地権の売却価格は、売却方法によって大きく変動します。もっとも高値で売りやすいのは「底地と借地権の一体売却」でしょう。
借地人と地主が同時に権利を売却すると、土地は完全な所有権となりますので、近隣の所有権価格を基に売買価格も査定され、「借地権のみ」「底地権のみ」の場合と比べ、評価が上がります。
第三者への売却は、地主の承諾が必要です。承諾料の負担や手続きが発生するため、価格はやや下がることがあります。また、買い手が借地権を理解している必要があるため、購入者が限定される点も影響します。
その他にも「等価交換」という方法もあります。
例えば、100坪ある敷地を50坪づつ権利を交換(底地権と借地権)してそれぞれが所有権となった土地を売却するという方法です。
また、借地人が底地を地主から一度購入し所有権化してから売却するという方法もあります。等価交換と同様、借地権を所有権化することにより、より高値で売却するという方法ですが、いずれのケースも地主との調整が必要でしょう。
借地権売却時にかかる税金と控除
借地権を売却すると、利益が出た場合に税金がかかります。ここでは、税金の仕組みと、控除を利用して負担を減らす方法を解説します。
譲渡所得税の仕組み
借地権を売却して利益が出た場合には、譲渡所得税がかかります。税額は、次の式で算出します。
取得費とは購入時に支払った費用のことで、領収書などが残っていない場合は「売却価格の5%」を取得費として扱う概算取得費が利用できます。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていると「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」となります。単純な所有年数ではない点に注意が必要です。
税率の詳細は以下の表をご覧ください。
| 区分 | 所得税 | 復興特別所得税※ | 住民税 | 合計税率 |
| 長期譲渡所得(5年超) | 15% | 0.315% | 5% | 20.315% |
| 短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 0.63% | 9% | 39.63% |
※所得税×2.1%
計算方法を押さえておくことで手取り額の見通しが立ち、売却時期を判断する際の参考になります。事前に試算しておくと安心です。
3000万円特別控除などの適用条件
「居住用財産の3,000万円特別控除」とは、自宅売却時の譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける制度です。借地権付き住宅でも、一定の条件を満たせば「居住用」とみなすことができ、特例が適用されます。
適用対象となる主なケースは、次のとおりです。
- 自分が住んでいる家
- 以前住んでいた家(住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに売却)
- 上記1・2と併せて売却する敷地や借地権
- 取り壊した家の敷地(取り壊し後1年以内の契約・売却契約まで土地を利用しない)
- 災害で家が滅失した敷地(期限内の売却が必要)
控除を受けるには確定申告が必要です。また、売買契約書・登記事項証明書・住民票などの提出も求められます。また、併用できない特例(買換え特例など)もあるため、利用する制度を事前に確認しておきましょう。
地主との交渉と承諾拒否への対処法
ここでは、交渉をスムーズに進めるコツと、承諾が得られない場合の対処法を解説します。
スムーズな交渉のポイント
借地権をスムーズに売却するポイントは、できるだけ早い段階で地主へ相談することです。突然売却の話を進めると不信感を抱かれやすいため、まずは事情共有を行い、ゆっくりと意見交換から始めるなどして、交渉の空気を和らげましょう。
特に、承諾料(名義変更料)の金額は、法律で細かい基準が決まっておらず、地域の慣習や契約内容で金額に差が出やすいため、行き違いが起きやすい部分です。目安としては借地権価格の5〜10%ですが、残っている契約期間や地代の水準によって上下することもあります。
相場の根拠を示しながら、客観的な視点で話を進めると理解が得られやすいでしょう。必要に応じて不動産会社や専門家に同席してもらえれば、中立的な視点から話を整理できるので安心です。
承諾を得られない場合の法的手段
地主から承諾が得られない場合でも、売却をあきらめる必要はありません。借地借家法第19条に基づき、家庭裁判所へ「譲渡許可申立て」を行い、裁判所が妥当と判断すれば地主の承諾がなくても譲渡が許可されることがあります。これは本来、地主が合理的な理由なく拒む状況に備えた救済手段です。
申立てには数カ月ほど時間がかかり、費用の相場は数万円〜十数万円です。書類の準備や法的判断が必要になるため、弁護士や司法書士のサポートを受けるほうがスムーズに手続きを進められるでしょう。
借地権付き建物を高く売るためのコツ

借地権は工夫次第で売却価格が大きく変わります。ここでは、借地権付き建物を高く売るためのコツについてわかりやすく解説します。
複数の専門業者へ査定を依頼する
一般の仲介会社は、借地権の評価や承諾交渉に不慣れです。一方、借地に精通した会社であれば、承諾料の相場や交渉の落としどころを踏まえた提案ができ、売主の味方になって動いてくれます。
加えて、複数社に査定を依頼し、「地主との交渉経験が豊富か」「底地(地主の土地)との同時売却などを視野に入れた提案があるか」といった、金額以外の視点も比較しながら検討しましょう。それぞれの強みを比べることで、自分にとって納得できる進め方が見つかりやすくなります。
建物の解体や現況維持の判断
借地権付き物件は、売却後に建物を残すか解体するかで売れる相手も価格も変わります。古家を残して売る場合は買主がリフォームして住む選択肢を取れるため、初期費用を抑えられる点がメリットです。
一方、更地にして引き渡す方法は、注意が必要です。借地契約は建物がある事が前提となっているため、更地にした後に売買契約が白紙となった場合は借地権を主張する事が出来なくなる可能性があります。
建築計画が立てやすいからと、「買主から更地にしてください」と頼まれた場合は、残代金決済後に建物の解体をする等の約束をするようにしましょう。
また、解体費用の目安として、木造30坪ほどで100〜150万円前後が一般的ですが、借地権売却時の手取り額を把握するためにも、複数社から見積もりを取っておくと安心です。
築年数が古く建物価値がほぼない場合は更地化が有利なこともありますが、意外に建物付きの方が高く売れるケースもあります。手取りがどちらで多くなるかを基準に検討することが大切です。
借地権売却の流れと必要な書類
借地権売却のおおまかな流れは、次のとおりです。
- 借地契約内容の確認
- 地主への連絡と承諾交渉
- 不動産会社による査定・買主探し
- 売買契約、登記、税申告
まずは借地契約書を確認し、契約形態(旧法借地/普通借地・定期借地)、残存期間、地代、更新条件などを把握します。続いて、地主へ売却の意向を早めに伝え、名義変更料や承諾条件について話し合うことが大切です。
その後、借地権に詳しい不動産会社へ査定を依頼し、買主探しや条件調整を進めます。売却が決まったら、地主承諾書の取得、売買契約、登記手続き、譲渡所得の申告へと移ります。
スムーズに進めるには、以下のような必要書類を事前に揃えておくことも重要です。
- 借地契約書
- 登記事項証明書
- 地主の承諾書(または譲渡許可申立て書類)
- 本人確認書類、印鑑証明書
全体の流れを把握し、早めの準備を心がけることで、ムダな時間やトラブルを避け、安心して売却手続きを進めやすくなります。
借地権売却においてよくある質問Q&A
- Q1. 借地権は地主に返すしかない?
-
借地権であっても、地主の承諾を得られれば第三者へ売却も可能です。
承諾料が発生する場合があります。承諾が得られない際は、
家庭裁判所の「譲渡許可申立て」も可能です。
- Q2. 借地権の相場はどこで調べられる?
-
相場は、路線価図で土地評価額と借地権割合を確認し、概算計算できます。
実際の売却価格は残存期間や承諾条件で変動するため、
不動産会社の査定を併用することが大切です。
- Q3. 売却益が出た場合の税金対策は?
-
利益が出た場合は「譲渡所得税」がかかりますが、
居住用3,000万円控除や長期譲渡所得の税率優遇を活用すれば
負担を抑えられます。控除には確定申告が必要なため、
書類準備と事前相談が重要です。
まとめ
借地権は制約があるため売却が難しい印象を持たれがちですが、流れを押さえて進めれば売却は十分可能で、条件によっては高値成約も狙えます。特に、相場の把握、地主との交渉、税金対策の3点を意識しておくことが重要です。
借地権を扱い慣れた不動産会社や司法書士へ相談すれば、手続きや交渉もスムーズに進みやすくなります。老後資金づくりや相続整理の手段としても有効なため、迷っている方は早めに専門家へ相談してみてください。

