
家族が経営する企業で働いている、といった方が、世代交代や体調不良、死別などを理由に、自社ビルや事業所を引き継ぐケースがみられます。このとき、建物が事業用定期借地権付きの契約で建っている場合、契約書の内容によっては高額な地代の支払いが発生する場合があり、会社の資金繰りを圧迫する恐れに注意が必要です。
「現在は拠点を別のビルに移している」「別の事業所へ移転を検討している」という状況の場合、所有権を持つ建物であれば、居抜きで売却し、支払い金額を減らせます。
しかし、事業用定期借地権のケースは、地主側から「事業用定期借地権なので第三者への譲渡は認めない」「手放す場合は契約書に則り、自腹で建物を解体してから更地で返還するように」「定期借地権だから、建物買取請求権は使えない」などと言われ、途方に暮れてしまう例がみられます。
今回は、事業用定期借地権とはどのような契約なのか。定期借地権付きの建物を売却する場合、建物買取請求権は行使できるのか、借地人が陥りがちなリスクや覚えておくべき交渉術について解説いたします。
事業用定期借地権では「建物買取請求権」は原則発生しない

事業用定期借地権の契約をしている場合、建物買取請求権は原則発生しません。なぜ事業用定期借地権は、建物買取請求権の対象にならないのか、理由やその他借地権との違いをみてみましょう。
そもそも「建物買取請求権」とは?
建物買取請求権とは、借地借家法第13条に定められた、「借地契約が終了する際に、地主にたいして建物を時価で買い取るように請求できる権利」です。借地契約の期間が満了した後、契約を更新しない場合、借地人からの意思表示があれば建物の売買契約が成立する、借地人を保護するための強い法定権利です。
e-Gov法令検索:借地借家法(第13条:建物買取請求権)
https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
事業用定期借地権で建物買取請求権が発生しない理由
借地人を守ってくれる建物買取請求権ですが、相続や事業継承した自社ビルや事業所の契約が、「事業用定期借地権」である場合、地主への買取請求が原則できません。事業用定期借地権は、「地主が安心して事業向けの土地を貸し出せるように」という目的で作られているため、一般的な借地権のルールとは異なった契約になっています。
通常の借地契約で事業用建物を建てる場合、地主側は土地を貸したあと、半永久的に返してもらえないリスクがあります。リスクを恐れて、地主が土地の貸し渋りする、といった事態にならないように、事業用定期借地権は「あらかじめ定めた期間が来たら、更地の状態で土地を地主に返還する」という契約になっています。
また契約を結ぶ際は、「借地人が自費で更地にすること」「地主にたいする建物買取請求権は適用しないこと」といった特約が盛り込まれるのが一般的です。この国が認めた制度により、事業用定期借地権の契約で建てられた自社ビルや事業所は、建物買取請求権が適用されません。
日本公証人連合会のホームページでは、存続期間が定期借地権(50年以上)よりも短く、期間満了後にかならず土地が戻ってくる制度として、事業用定期借地権の2つの要件が紹介されています。
①存続期間が30年以上50年未満の事業用定期借地権を設定する場合には、貸主と借主が、契約の更新および建物の再築による存続期間の延長がなく、建物買取請求をしないことを約定すると、この約定は有効で、更新等のない借地権になります(法23条1項)。
②存続期間が10年以上30年未満の事業用定期借地権を設定する場合には、契約の更新、建物の再築による存続期間の延長および建物の買取請求権に関する法の規定は、上記①とは違い、当事者間の約定がなくても、当然に適用が排除されます(法23条2項)。
存続期間が30年以上50年未満の事業用定期借地権を設定する場合は、建物買取請求をしないことを約定すること。また存続期間が10年以上30年未満の事業用定期借地権を設定する場合は、約定がなくても建物買取請求権の適用が排除されます。
日本公証人連合会:定期借地権(事業用定期借地権等)Q17
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow06
他の借地権(普通借地・一般定期借地)との違い・比較表
| 借地権の種類 | 契約期間の目安 | 建物買取請求権の扱い | 契約満了時の基本ルール |
|---|---|---|---|
| 普通借地権 | 30年以上(更新あり) | 国が認める強い権利(原則として行使できる) | 地主が建物を時価で買い取る、もしくは契約更新 |
| 一般定期借地権 | 50年以上(更新なし) | 特約で排除可能(通常は契約書で排除される) | 原則として建物を取り壊し、更地にして地主に返還 |
| 事業用定期借地権 | 10年以上50年未満(更新なし) | 10年以上30年未満の契約(23条2項)では当然に排除。30年以上50年未満の契約(23条1項)では特約(約定)により排除されるのが通例 | 借地人が自費で解体し、更地で返還 |
普通借地権、一般定期借地権、事業用定期借地権のうち、建物買取請求権が完全に排除されているのは、事業用定期借地権のみになります。普通借地権もしくは、特約がついている一般定期借地権の場合は、地主に買取請求ができますが、事業用定期借地権は、特段の合意がない限り、契約満了時の更地返還が原則となっています。
借地人が陥りがちな「建物処分・解体費用」を巡る落とし穴とリスク

事業用定期借地権付きの建物を処分・解体する場合、覚えておくべきいくつかの落とし穴やリスクが考えられます。事前に知っておくことで、回避できるリスクやトラブルもあるため、言われるがままに更地にして返すのではなく、出口戦略を立てながら進めていきましょう。
事業用定期借地権では原則「建物買取請求権」が使えない
前述した通り、事業用定期借地権の契約で建てられた自社ビルや事業所の場合、建物買取請求権は原則使えません。ですが、この事実を知らず「建物買取請求権が使えない」という落とし穴に気付かない状態で、普通借地権の知識で「最後は地主に建物を売却すればいい」と投資計画を立ててしまう事例があります。
事業用定期借地権を活用した自社ビルや事業所の契約は「契約満了時の更新ができない」「地主による買取請求もできない」「最後は建物を解体して、更地で返還する必要がある」という内容であると把握しておきましょう。
「解体費用がない」では済まされない
事業用定期借地権の契約は、地主による買取ができず、自費で「更地」にする義務が生じます。ロードサイドに建てられた規模の大きな店舗、面積の広い工場など建てられている場合、契約満了時に数千万〜数億円の解体費用が発生する恐れがあり、注意が必要です。
解体費用が足りない場合、保証金(敷金)の没収や損害賠償に発展する可能性があります。事業用定期借地権の契約で、事業用の建物を運用している場合は、解体までの年数を計算し、利益から「解体引当金」をプールしておく、といった財務対策が重要です。
「建物買取請求権の放棄特約」と撤退コストの恐ろしい関係
「事業用定期借地権で建てた自社ビルや事業所で企業を運営してきたけれど、思うように業績が振るわない」という場合、あきらめて撤退を選ぶケースもあります。このような中途解約の場合であっても、更地返還義務は容赦なく適用されます。
赤字運営で苦境に立たされる中、さらに巨額の解体費が必要になる、といった高額な負担に備えるためにも、出口戦略の検討が求められます。
契約書に「公正証書の文言不備」があれば、建物買取や契約延長を主張できる可能性も?
事業用定期借地権の契約では、公正証書が交わされます。このとき地主側の公正証書に致命的な不備がある場合、事業用定期借地権の契約が無効になり、普通借地権として扱われる可能性があります。
「専ら事業の用に供する建物」に関する要件を欠くなどの不備があり、事業用定期借地権としての効力が認められない場合、普通借地権として扱われ、借地人が建物買取請求権や契約更新を主張できる可能性があります。自社ビルや事業所の更地返還問題で頭を悩ませている場合は、公正証書のチェックをプロに依頼すると、解決の糸口になる可能性があります。
私たち、新青土地コーポレーションは、借地権問題専門の不動産コンサルタントです。事業用定期借地権の契約にまつわるお悩みやご相談がありましたら、お気軽にご相談ください。公正証書や契約書の確認、できるだけリスクを抑えながら更地返還を進める方法のアドバイスなど、手厚くサポートいたします。
契約締結前に借地人が地主と交渉すべき「3つの特約」

事業用定期借地権の契約をこれから交わす予定の場合、契約締結前に地主と交渉するべき3つの特約があります。莫大な解体費用で事業に与える影響を減らすために、事前に相談しながら進めてみてください。
次のテナントへの「居抜き引き継ぎ(名義変更)」による解体免除
事業用定期借地権付きの建物の契約が満了した場合や、中途解約を選ぶ場合「次のテナントを見つけ、居抜きで引き継ぎ(名義変更)をする」という特約を付けると、解体費用の支払いが不要になります。
地主側も「次のテナントを探す手間なく、引き続き地代を受け取れる」というメリットがあるため、合意を得やすい特約です。事業用定期借地権付き建物を契約する際は、居抜き引き継ぎ(名義変更)の特約を締結できるように交渉を進めてみてください。
「地主への建物無償譲渡」による更地返還義務の免除
事業用定期借地権付き建物は、契約満了時の更地返還が、借地人の大きな負担になります。この高額な解体費をゼロにするなら「地主への建物無償譲渡」という特約をつけておく方法があります。
契約満了時に、建物を地主へ無償で譲渡する代わりに「更地に戻す義務および解体費用を免除してもらう」という内容の特約です。
この特約を締結できると、借地人は数千万〜数億円にのぼる場合もある解体コストを合法的に回避できます。地主側も、譲渡されたビルや店舗をそのまま活用し、別の企業へ貸し出せるというメリットがあるため、お互いにとってプラスとなる交渉が可能です。
中途解約時の「予告期間」と「違約金・解体猶予」の緩和
事業用定期借地権の契約は、原則として中途解約ができません。しかし、世界情勢など予期せぬ理由で事業撤退を選ばなければいけなくなるケースも考えられます。このような、突然の撤退に備えて、中途解約時の予告期間を長めに設定しておくと、余裕をもって解体作業を進められます。
契約によっては「中途解約時には、残り期間の地代を違約金として、その時点で全額支払うこと」といった内容になっているケースがみられます。このような契約内容では、事業撤退の赤字に加え高額な地代の支払いが必要となり、事業全体が立ち行かなくなる可能性があります。
「中途解約時は、あらかじめ定めた予告期間内であれば、違約金(残りの地代の支払い)は発生しない」もしくは「中途解約の場合は、地代の〇ヶ月分を支払うこととする」といった取り決めを文章に入れておくと、事業撤退となった場合の負担を減らせます。
借地人のリスクを減らすための「特約文言」のサンプル

事業用定期借地権の契約における借地人のリスクを減らすためには、事前に特約の文言を含めておく必要があります。具体的にどのような文言を選ぶべきなのか、サンプルを紹介いたします。
居抜き譲渡・更地返還免除の合意条項
第〇条(譲渡および原状回復義務の免除)
- 借地人は、本契約の期間満了時または中途解約時において、本物件(建物およびその設備等)を居抜き状態のまま第三者に譲渡すること、およびこれにともなう賃借権の譲渡について、地主にたいして事前に書面により承諾を求めることができる。地主は、正当な事由がない限り、これを承諾するものとする。
- 前項に基づき賃借権の譲渡が行われた場合、借地人の土地にたいする更地返還義務および原状回復義務は完全に免除されるものとする。
※特約の文言は個別の契約条件により調整が必要です。実際の契約書作成時は、必ず弁護士・公証人に確認をお願いしてください。
まとめ

事業用定期借地権の契約は、建物買取請求権が認められません。これから契約を行う場合は、事業撤退の可能性も考慮した上で、会社を守るために必要な特約を、契約書に含めておきましょう。更地にする期限から逆算して、契約満了後、速やかに解体費用を捻出するための準備も重要です。
すでに契約している自社ビルや事業所、親から引き継いだ建物が事業用定期借地権付きの場合も、公正証書の文言不備などがあれば、普通借地権に切り替えられるケースがあります。
「契約時の公正証書のどこをみたら良いのか分からない」
「事業用定期借地権の契約にあたり、できるだけリスクを減らしたい」
という場合は、借地権の専門家である新青土地コーポレーションへご相談ください。経験豊富な不動産コンサルタントがご相談者様の契約内容、契約満了までの期間、リスクや問題点など、手厚くサポートいたします。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件における法的判断・税務判断を保証するものではありません。

