港区白金三丁目/旧法借地権(借地面積 約80㎡・木造瓦葺2階建)/2024年8月ご相談 → 2025年7月完了

ご相談の内容

お母様から相続した借地権を売却したい、というご相談でした。ご相談者はご姉弟のお二人です。

事例のイメージ

土地を借り始めたのは昭和44年。同じ年に建てた木造2階建の家が、いまも建っています。借地契約は昭和63年に期間20年で結び直され、平成20年の満了後は法定更新のまま。旧借地法が適用される、いわゆる旧法借地権です。借地人の名義は、亡くなられたお母様のままになっていました。

そして、この借地には建物収去土地明渡請求訴訟の判決がありました。しかも、借地人側が勝った判決です。

56年分の経緯

最初の面談で伺った話と、お預かりした判決書・登記簿から整理した経緯が、以下です。

56年分の経緯イメージ

時期 出来事
昭和44年 借地開始。同年、木造2階建の建物を建築(当初の地主とは良好な関係)
昭和63年 期間20年で契約を締結し直す。地代は月1万7,500円
平成8年 建物共有者の一人が死亡。持分がご相談者のお母様へ移転
平成11年 地主が死亡し、子が土地を相続。この頃、新しい地主から「底地を買い取らないか」と打診され購入を検討したが、地主側の気が変わり立ち消え
平成15年 地主個人から、地主が代表を務める同族会社へ土地が売却され、賃貸人の地位が同社に承継される
平成17年 地主側が賃料増額請求訴訟を提起。その後、取下げ
平成19年7月 期間満了に先立ち、地主側から更新拒絶の通知
平成19年11月 地主側が建物収去土地明渡請求訴訟を提起
平成20年6月 訴訟の中で、地主側が立退料の支払を申し出る(当時の借地権価格の約85%、更地価格の約59%にあたる水準)
平成20年7月 契約期間が満了。以後、法定更新の状態に
平成21年4月 判決。地主側の請求をいずれも棄却、訴訟費用も地主負担
平成28年 地主側から借地権買取の打診。当初は当時の更地価格の約7割、その後さらに上積みされた回答もあったが、地主側の一方的な事情でキャンセル
令和6年8月 当社にご相談

昭和44年から数えて55年。地主が代替わりした平成11年以降に限っても25年、揉め続けている借地でした。

平成21年の判決 ― 何が争われ、なぜ地主が負けたのか

判決イメージ

旧借地法4条1項は、地主が更新を拒絶するには「自ら土地を使用することを必要とする場合その他正当の事由がある場合」でなければならないと定めています(借地借家法の施行前に設定された借地権の更新については、同法附則により従前の例によります)。この訴訟の争点も、そこ一点でした。

地主側の主張は、要旨こうです。地主個人と同族会社を合わせて11億円を超える負債があり、これを返済するには本件土地を含む複数の不動産を売却して返済原資に充てる高度の必要性がある。加えて、地代が坪当たり1,654円と近傍相場に比べて著しく低廉である。建物も築39年を経過し、借地権はその目的を達成している。

これに対し借地人側は、建物に現に居住する高齢の姉妹であり、いずれも年金生活者で、土地使用の必要性は高いと反論しました。地代についても、公租公課の5倍以上を支払っており低廉ではないと争っています。

裁判所の判断は、地主側の必要性をひとつずつ切り崩すものでした。

  • 地主は本件土地のほかに、敷地を含めて8億円程度の価値があると推認されるマンションを保有しているのに、それを売却せず、借地人を立ち退かせてまで本件土地の処分を優先しなければならない理由が示されていない
  • 本件土地をどう売るのか、隣地と一括するのかどうかも含めて具体的計画が存在しない。地主本人は法廷で「要するに社会情勢を見ながらやれば何とかなると思います」と述べている
  • 隣接する土地の借地人とは、立退交渉をしないまま期間20年の賃貸借契約を新たに締結している。同じ借地人でありながら、この処遇の差を正当化できる事情がない
  • マンションを売っても本件土地を売っても、地主の負債を完済できない点では変わらない
  • 借地人は本件建物を生活の本拠とする高齢の姉妹であり、土地使用の必要性は高い
  • 建物の築年数について ― 法定耐用年数表は税法上、恣意性を排除するために耐用年数を画一的に定めたものであって、年数を超えているからといって直ちに現実に耐用年数を超えているとは推認できない

そのうえで、申し出のあった立退料を「十分斟酌してみても、上記の正当の事由についての判断は、何ら左右されない」と述べ、請求を全部棄却しました。

借地権者側から見れば、これ以上ない勝訴です。

それでも、借地権は現金にならなかった

問題はここからでした。

判決が守ったのは「住み続ける権利」です。「売って現金に換える権利」は、判決では手に入りません。 借地権の譲渡には賃貸人の承諾が必要で(民法612条1項)、これは訴訟に勝ったかどうかとは無関係に残ります。

売って現金に換える権利

そして訴訟の後、関係はさらに硬直しました。平成28年に地主側から買取の打診があったものの、これも一方的にキャンセルされています。契約は法定更新のまま、名義も昔のまま。ご相談者のお母様が亡くなった後も、地主への通知はされていませんでした。

判決から当社にご相談いただくまで、15年。その間、この借地は動いていません。

「今度こそ売り切りたい。できれば地主以外の第三者に譲りたい」というご相談者のご希望は、この経緯を踏まえれば当然のものでした。

交渉の入口で言われたこと

地主は法人で、代理人として弁護士が立っていました。まず地主側の意向を確認しようと連絡したところ、返ってきたのは次の趣旨の回答です。

第三者へ売りたいのなら、価格と条件をそちらから出してほしい。それを見て、地主として買い取るかどうかを判断する。

順序としては地主側に理があります。借地権者が承諾を得られないときは、裁判所に承諾に代わる許可を申し立てることになりますが、平成4年8月1日より前に設定された借地権については、借地借家法附則により譲渡許可の事件は旧借地法9条の2によることとされており、本件もこれに該当します(現行法では借地借家法19条が同趣旨の規定です)。

そして、この申立てがあったとき、地主の側は「自分が譲り受ける」と申し立てることができます。旧借地法9条の2第3項に定められた、実務でいうところの地主の介入権です。地主は、借地権者が第三者へ売る条件を見なければ、介入するかどうかを判断できません。「先に条件を出せ」という要求は、この構造をふまえたものでした。

ここで方針を決めました。地主に「買いますか」と尋ねるのをやめ、第三者への売却条件を一式作り込んで正式に提示する。 平成11年も平成28年も、口頭ベースの打診が地主の気変わりで消えています。同じことを繰り返さないためには、地主が机上で損得を計算できる書面を渡すしかないと考えました。

提案のイメージ

提示した内容と、地主からの回答

令和6年11月、要望書として、売却価格・承諾料の算定根拠(相続税路線価と借地権割合70%を明示)・新賃貸借契約の期間と地代・抵当権設定承諾・再販時の名義変更承諾料の扱いまで条文化した合意書案を送付しました。承諾料は譲渡承諾料・建替承諾料・期間変更料の合計で更地価格のおよそ16%(借地権価格に対して約22%)です。

一か月後、地主側の代理人から内容証明が届きました。前半は合意書案の全面拒否。そして後半に、こう書かれていました。

借地法第9条の2第3項に準じて、以下の価格で買い取ることを申し入れます。 ①借地権価格=更地価格 × 借地権割合70% ②名義変更料=借地権価格の10% ③建替え承諾料=借地権価格の5% ④買取価格=①−(②+③)

地主が、介入権の考え方に沿って自ら買い取ると表明したのです。買取価格は更地価格の約59.5%。当社が第三者売却として提示していた水準と、ほぼ同じでした。

ここが分かれ目でした

解体費・地中埋設物撤去費・残置物処分費・滅失登記費用・仲介手数料等を差し引く前の比較表
※解体費・地中埋設物撤去費・残置物処分費・滅失登記費用・仲介手数料等を差し引く前の比較です。

計算式だけを見れば、借地権価格から承諾料相当額を差し引いた、地主側に有利な立て付けに見えます。しかし手元に残る金額は逆になります。

第三者へ売却する場合 売却価格(更地価格の約59.5%)から、承諾料(更地価格の約16%)を借地権者が負担する。 → 手取りは更地価格の約44%

地主が買い取る場合 承諾料という概念が発生しない。買取価格がそのまま入る。 → 手取りは更地価格の約59.5%

差は更地価格の約16%分、借地権価格に対して2割を超えます。ご相談者は「地主以外に売りたい」というご意向をお持ちでしたので、この点は数字を並べたうえで率直にご説明しました。感情の問題と経済の問題を切り分けていただき、最終的に地主への売却を選択されています。

そのあとに起きたこと

決済までさらに半年かかりました。順調に進んだわけではありません。

引き渡し方法での対立イメージ

相続関係の証明を求められた(令和7年3月) 地主側は「借地人はお母様である」という認識のままでした。相続の発生も、誰が借地契約を承継したのかも、地主には一度も通知されていなかったのです。代理人からは、出生から死亡までの戸籍謄本一式と、遺産分割協議書(印鑑証明書付)の原本提示を求められました。当然の要求で、これを揃えるのに一か月以上を要しています。

建物の引渡し方法で対立した(令和7年4月) 当初、当社は建物現況渡し・残置物は借地人負担で撤去・契約不適合責任免責という条件を回答していました。これに対し地主側は、昭和63年の借地契約第7条に「契約が終了したときは、直ちに建物を収去して土地を明け渡さなければならない」との定めがあることを持ち出し、現況渡しを拒否しました。

皮肉なことに、この第7条は平成21年の訴訟では何の意味も持たなかった条項です。更新拒絶に正当事由がなければ契約は終了せず、収去義務も発生しないからです。ところが、借地権者が自ら売却する局面になると、同じ条項が費用負担として現実化しました。 最終的に更地渡しを受け入れ、解体費用を売主負担とすることで合意しています。

地中から埋設物が出た(令和7年6月) 解体に着手したところ、地中埋設物が見つかりました。撤去費用は建物解体費の半分を超える追加負担です。契約不適合責任は原則免責としつつ、地中埋設部分についてのみ責任を残す形で調整し、売主側の負担で撤去しました。更地にするという判断は、こうしたリスクを表に出す判断でもありました。

結果

令和7年6月に売買契約を締結し、解体工事に着手。6月末に残金決済を行い、7月に建物滅失登記を完了しました。

解体費・地中埋設物撤去費・残置物処分費・滅失登記費用・仲介手数料等を差し引いた最終的な手取りは、更地価格のおよそ5割です。

ご相談から完了まで11か月。地主が最初に更新拒絶を通知した平成19年から数えると、18年かかったことになります。

この事例から言えること

訴訟に勝つことと、借地権を換価することは、別の問題です。 本件のご相談者は、明渡請求を退けた判決を持っておられました。それでも15年、借地権は動きませんでした。判決が守るのは占有であって、換価ではありません。更新拒絶を退けた後、その借地権をどう出口につなげるかは、判決とはまったく別に設計する必要があります。

「地主は買わない」は、条件を書面にすると変わることがあります。 ご相談者は当初「どうせまた流れる」と考えておられました。実際、二度の口頭ベースの打診は流れています。しかし、価格・承諾料の算定根拠・契約条項まで書面で示すと、地主は買うか買わないかを計算して判断せざるを得なくなります。第三者への売却条件を作り込む作業は、地主の判断を引き出すための手続でもあります。

承諾料を誰が負担するかで、手取りは大きく変わります。 売却価格だけを比べても意味がありません。本件では同水準の価格でありながら、手取りには更地価格の約16%の差が生じました。承諾料・解体費・測量費まで含めた手取りベースでご比較ください。

契約書の条項は、売却のときに費用として現実化します。 建物収去義務の条項は、更新拒絶が争われた場面では機能しませんでしたが、売却の場面では解体費という実額になって戻ってきました。契約書は、揉めたときだけでなく、売るときに読み直す必要があります。

相続後に名義を放置すると、交渉の入口で止まります。 本件では、地主が相続の事実を知らないまま十数年が経過していました。戸籍と遺産分割協議書を揃えるのに一か月以上かかっています。借地権を相続された時点で地主へ通知し、契約名義を整理しておけば不要だった時間です。

正直に申し上げておくべきこと

割合で見れば、水準はほとんど変わっていません。 平成20年に訴訟の中で申し出のあった立退料は当時の更地価格の約59%、今回の着地は約59.5%です。金額が伸びたのは、この間に相続税路線価が約1.76倍になったためで、交渉の成果というより地価上昇という外部要因です。「待てば上がる」と申し上げるつもりはありません。地価が下落する局面であれば、逆の結果になっていた可能性は十分にあります。

平成28年の打診のほうが、割合としては高かったかもしれません。 ご相談者の記憶では、当時の提示は更地価格の約7割、その後さらに上積みされた回答もあったとのことです。裏付け資料は残っていないため断定はできませんが、割合としては今回の水準を上回っています。当時の路線価が現在の約54%の水準であったため、絶対額では今回のほうが上回る計算になりますが、「あのとき応じていれば」という比較が常に当社に有利になるわけではありません。

同じ経過をたどるとは限りません。 地主が介入権に基づいて買い取るかどうかは、地主の資力と意向次第です。買い取らないという判断であれば、借地非訟手続による譲渡許可の申立てを検討することになり、時間も費用も別に必要になります。

借地権の売却でお困りの方へ

借地権は、地主との関係、契約書の条項、相続の状況、過去の紛争の有無によって、取るべき手順がまったく変わります。同じ「借地権を売りたい」というご相談でも、第三者への売却を目指すのか、地主買取を引き出すのか、借地非訟まで視野に入れるのかで、最初に作るべき書面が異なります。

過去に地主と揉めたことがある、訴訟をしたことがある、相続してから名義を触っていない ― そうした事情がある借地権ほど、手順の設計が結果を左右します。

契約書と登記事項証明書をお持ちいただければ、想定される手取りと、そこに至るまでの手順をご説明いたします。初回のご相談は無料です。

株式会社新青土地コーポレーション
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宅地建物取引士/公認不動産コンサルティングマスター/相続対策専門士 国土交通大臣(一般)第1376号

※本事例は実際にお取り扱いした案件をもとに、ご相談者および関係者が特定されないよう内容を調整して掲載しています。金額は更地価格に対する割合で表記しています。記載の手順・水準はあくまで本件における結果であり、同様の結果をお約束するものではありません。

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